チカラとは。
昨日の要塞戦は、大魔王軍の大勝利であった。
もっとも、今回勝つであろうことはわかりきっていたのだが……
金曜日、入札の日である。
今回狙うはNの要塞。
要塞を持っているだけでステータスとなる中小血盟にまで弱体化している我らは、背伸びなどして勝つか負けるかの戦はできればしたくない。
入札血盟の様子を見つつ、締め切りギリギリまで待機。
結果、我々よりも人数も戦闘力も少ない血盟を相手取ることに成功した。
再度言うが今回は、要塞を得ることが目的であるため多少の非情な選択はとるものである。要塞戦の勝利がほぼほぼ確実になったところで、俺は考える。
敵は「血盟にとりあえず入っておきたい人はどうぞ」という血盟で、人数こそそれなりに多いものの非アクティブメンバーが多い。しかし、要塞戦に挑んだ。このことは何人かのヤル気が有るメンバーでの総意に違いない。つまり……
スカウトチャンス!
スタンスや活動状況からして、おそらく血盟への想い入れは少ないであろう。大魔王軍に入ることの有用性と楽しさを諭せば、アクティブメンバーを引き抜けないこともない。そう考えた俺は、作戦を考える………
大魔王:こんばんは。明日の対戦相手である大魔王軍が主、キーフだ。
急だが、提案がある。アクティブメンバーと共に大魔王軍に来ないか?
血盟ダンジョンや要塞戦などの活動が活発にうんたらかんたら……
……という訳だ。検討してみてくれ。
と、こんな感じのささやきを送った。しかし予想通りに行くものではない。
血盟主:まったりするのも血盟の形だと思うのでうんたらかんからお断りします。
大魔王:そうか。残念だ。
交渉失敗である。
そしてどうやらその血盟は友達と創ったものであり、想い入れが深いという話をされた。読みは見事に外れてしまったということだ。
しかし、そこで諦める俺ではない。得た情報を元に、逆に考えていく……
友達と創った血盟であるにも関わらず、数人しかログインしていないということはだ。
友達とリネレボで血盟主をやってみたは良いものの、上手くいかず結果的に弱い血盟のままになっているという線が濃い(予想であるため、事実は不明)。
リネレボは、血盟運営をするにあたって友達と作業分担できるならばかなり楽になる。それなのに弱いということは、彼らにはその程度のチカラしかなかったか、いろんな情報が少なすぎたか。
さて、ここまで考えた時にスカウトする作戦は………
「友達」を説得するか…イン率が高い、おもではないメンバーを引き抜くか。
どんなに想い入れが強い血盟でも、結果として「血盟にとりあえず入っておこう」スタンスの血盟では、血盟員は離れやすい。イン率が高いメンバーを説得すれば、我がチカラとなってくれる可能性は高い訳だ。
そして「友達」の説得。
「友達」がリア友なのかネッ友なのかはわからないが、血盟主の信頼を得ているはずた。そうでなければ、血盟主はこれを理由付けに自分の血盟を守ろうとはしないだろう。とりあえず副血盟主を友達と仮定して接触する。
すると、返事は「今の血盟は好きだが、血盟活動は活発な方がいいと思う。少し考える」というものであった。副血盟主が友達であろうとなかろうと、血盟内部に大魔王軍参入の情報を入れられたのだ。
ところが、ここで副血盟主から「他の血盟からも声が掛かっている」という情報を得た。これでは、声掛けした血盟にもよるが大魔王軍が吸収することは難しくなったのだ。
よって、俺のスカウト標的は…他の血盟員を主にすることに決めた。
要塞戦当日。
戦場に入場した俺は、演説をする。
大魔王:俺は待っておった。お前達のような勇敢な者達があらわれることを。
:もし俺の味方になるのならば、楽しいリネレボライフを与えよう。
:返事は要塞戦後にささやきでいい。
:我が圧倒的チカラを魅せてくれる!
:なにゆえもがき生きるのか!その意味を考える戦いにしてやろう!
:……ゆくぞっ!
本当はスクリーンショットを用意していたのだが、演説の最中に英狼(導かれし配下たち参照)が何やら言ってしまい、格好つかなくなったのでわざわざ文字を打ち込んでいる次第だ。
こうして大魔王ではないが、いにしえの竜の王の再現をするとともに勧誘し、相手の血盟員のココロをつかむ作戦である。
そして次は……
血盟チャット大魔王:すべての防御塔をへし折れ!終始祭壇は刻印せよ!
圧倒的チカラの誇示!
仲間の多い時、人は連携しチカラを発揮する。
相手の弱い時、人は誰でも蛮勇を振るうことができる。
以前、上位血盟に蹂躙された時に感じたチカラの差を、今度は相手に味わわせる。その仲間になれるという話をする。
よほどの愛着が無い限り、相手の血盟員は大魔王軍に入りたく思うだろう。
だが……
防御塔をへし折り、祭壇の占領を確認したところで、初めて違和感を感じる。
いままで、1度も敵とエンカウントしていないのだ。
敵は少ない。数人レベルである。しかし、それにしても誰も出会わない。
そして、俺は見たのだ。
……自軍のクリスタルの近くで倒れ付す、たったひとりのドワーフを。
なんということだ!
相手は…血盟主は、その責務を果たすためにたったひとりで我らと相対したのだ!
なんと健気で、なんと勇敢で、なんと報われない者であろうか!
俺の演説を聞いたかはわからぬが、どんな心持ちで防御塔を折られ、攻め入れられ、そこに倒れたのであったか。
ボイチャ大魔王:総員、エモーションや花火などの煽り行為は絶対にするな!今すぐ刻印して終わらせる!
チカラの誇示はしても、相手の尊厳は守る。
それは相手の血盟主の、心のチカラを俺が認めた事に他ならないからだ。
かくして要塞戦は終結した。
敵の血盟主は我が配下の誰かが1度倒し、そのあともう一度リスキルされていた。
防御塔を両方折ったので時間は掛かったが、クリスタルに刻印した俺のみがMVPとなったことが、この戦いが一方的であった様を示している。
そのあと配下が血盟主を勧誘していたようだが、おそらくあの者は来ないだろう。
今回は、かなりの強敵と出会ったものだ。
……まったく、惜しい人材を逃したぜ。